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東京高等裁判所 昭和57年(行コ)237号 判決 1984年7月19日

控訴人、附帯被控訴人(被告) 世田谷税務署長

被控訴人、附帯控訴人(原告) 淡島富久 外三名

主文

一  本件控訴及び附帯控訴(当審での予備的請求を含む。)をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人の、附帯控訴費用は附帯控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴代理人は控訴の趣旨として、「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、附帯控訴につき、「被控訴人らの附帯控訴を棄却する。附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

被控訴代理人は控訴につき「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴の趣旨として、「原判決主文第二項中、被控訴人ら及び淡島千代野敗訴の部分を取り消す。控訴人が被控訴人淡島富久を除くその余の被控訴人及び淡島千代野に対し、昭和五〇年六月三〇日付でした相続税の更正及び過少申告加算税賦課決定(但し同年一二月一日付異議決定により一部取消した後のもの)のうち、課税価格を淡島千代野については四九六九万二〇〇〇円、被控訴人秋山ひろについては五六〇三万七〇〇〇円、被控訴人荒牧道子については三六九二万六〇〇〇円、被控訴人淡島雅男については四二四八万七〇〇〇円としてそれぞれ計算した額を超える部分(これに伴う各税額を含む。)を取消す(主位的請求)。本件更正及び過少申告加算税賦課決定を取消す(予備的請求)。訴訟費用は第一、二審を通じて控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、以下に附加するほか、原判決事実摘示及び当審書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

(一)  控訴人の当審での新たな主張

1  仮に原判決認定のとおり、敬助から千代野に本件土地家屋の共有持分について贈与があつたとしても、それは書面によらない贈与であり、三ツ輪会覚書公正証書が作成された段階で、初めてこれにより贈与が取消し得ないものとなつたと認めるべきである。

そうすると、右贈与は本件相続開始前三年以内におこなわれたものというべきであるから、本件相続税の課税に関しては、相続税法一九条が適用されることとなる。即ち、書面によらない贈与は、書面化されるまで又はその履行が終るまでは、いつでも一方的に取消すことができるものであるから、その書面化又は履行の時が受贈者の確定的な財産取得の時期であり、これにより贈与税の課税適状が生じると一般に解されている。この点は相続税法一九条の「贈与により財産を取得したことがある場合」の解釈についても同様である。

本件の場合昭和四七年七月二六日前記覚書公正証書の作成を以て贈与の書面化又は履行があつたと認められるから、千代野は右同日敬助の共有持分の一部を贈与によつて確定的に取得したこととなるところ、相続税法一九条は、相続により財産を取得した者が、相続の開始前三年以内に当該相続にかかる被相続人から贈与により財産を取得した場合、その者については、当該贈与により取得した財産の価格を相続税の課税価格に加算した価格を相続税の課税価格とみなし、相続税を計算する旨規定している。敬助の死亡に伴う本件相続の開始は、前記公正証書作成時から三年を経過していない昭和四八年一月四日であるから、本件相続税の課税に当つては、同法一九条を適用し、千代野が敬助から贈与によつて取得した共有持分の価額を同人の相続税の課税価格に加算すべきである。

2  そこで右の観点から、千代野が敬助から贈与を受けた財産の価額、相続税の課税価格等を計算すると、以下のとおりとなる。

(1) 贈与された共有持分の割合

持分贈与前の敬助と千代野の持分比率は、家督相続の経緯等に照らし、敬助三、千代野一であつたことは明らかであり、島田正を三家の共有関係から排除した際、同人の持分を他の共有者に配分するに当つては、三ツ輪会覚書公正証書によれば、他の共有者の持分割合に応じ配分されているところであるから、右正の持分につき淡島家に帰属する分は、敬助三、千代野一の割合で二人に配分されたものというべきである。従つて、島田正の持分を配分した後における敬助の持分割合は、淡島家の持分割合三七・七六二パーセントの四分の三である二八・三二一五パーセント、千代野の持分割合は、四分の一である九・四四〇五パーセントとなるべきところ、同公正証書により敬助は千代野に対し、両者の持分割合を平等とすべく持分を贈与したのであるから、贈与された持分割合は、淡島家の持分割合の四分の一に当たる九・四四〇五パーセントとなる。

(2) 贈与された共有持分の価額

イ 本件土地に係る共有持分の価額

一億一三〇万三五六四円

昭和四七年度固定資産税評価額(乙第八六号証)及び昭和四七年分相続税財産評価基準による倍率(乙第八七号証の七)、貸宅地・貸家建付地割合(乙第八七号証の六)に基づいて、別表一のとおり一億一三〇万三五六四円と算定した。

なお、別表一番号13の土地の地積は公簿上、公正証書作成日現在、二万八六八〇平方メートル、本件相続開始日現在、二万六六三七平方メートル、固定資産税価額は八三万七六三八円であるが、原判決判示のとおり、本件相続開始日現在のこの土地の実際の地積は、公簿上の地積より一〇八八平方メートル多い。従つて、本件公正証書作成日現在の地積も一〇八八平方メートル多い二万九七六八平方メートルと認められるところ、相続税評価額の算定の際には、固定資産税評価額を実際の地積に基づいて訂正する必要がある(原判決もこの理を認めている。三二丁裏から三三丁表)。そこで、次の計算により実際の地積に基づく固定資産税評価額を八六万九四一四円と算定した。

(1平方メートル当りの固定資産税評価額)(実際の地積)

837638円/28680 × (28680+1088)= 869414円

また、山林、原野の適用倍率については、原判決別表一一において二五倍(昭和四八年分)とあるものは、二七倍(昭和四七年分)とし、土地の利用区分も原判決別表一一と同一のものとして算定した。

ロ 本件家屋に係る共有持分の価額

七一万八九〇四円

昭和四七年度固定資産税評価額(乙第八八号証)及び昭和四七年分相続税財産評価基準による倍率、借家権割合(乙第八七号証の八)に基づいて別表二のとおり七一万八九〇四円と算定した。

ハ 本件立木に係る共有持分の価額

一二六万二八一二円

昭和四七年分の相続税財産評価基準による樹種、樹令に応じた一ヘクタール当りの標準価額(乙第八七号証の九)に基づいて、別表三のとおり算定した立木の時価一四八万五六六二円に、相続税法二六条の二所定の一〇〇分の八五の割合を乗じて一二六万二八一二円と算定した。

(3) 相続税の課税価格等

千代野が贈与により取得した共有持分の価額を加算した後の千代野(及び被控訴人ら)の相続税の課税価格及び相続税額等は、別表四、五のとおりとなる。

(二)  被控訴人の附帯控訴による予備的請求の請求原因

1  原判決は、本件更正等はその実質において、国税通則法二三条四項の更正の請求を認容する処分としての減額更正と、同法二四条の増額更正とを同時的、複合的に行なつたのと異ならないものというべきであるとし、当該処分において更正の請求に対してその主張の減額事由を認めるとの判断を加え、かつその事を明示している以上、少くとも訴訟利益に関しては、同法二三条四項の減額更正が別個に行なわれた場合と区別して取扱うべき理由はないとして、被控訴人のこの点に関する主張を全面的に認めた。

2  然るに、控訴人は、国税通則法二四条に基づく更正処分と同法二三条四項に基づく更正の請求に対する減額更正をすべき理由がない旨の通知処分とは、法律上も区分された別個独立の処分であり、一方が他方に包摂されてしまうということは理論上有り得ないと強く主張する。

そうだとすれば、本件更正等は、同法二三条四項の更正の請求を認める減額更正と同法二四条の増額更正を違法に同時的複合的に行なつたものとして取消すべき瑕疵を帯有している。

3  よつて、被控訴人らは予備的に本件更正等の全部取消を求める。

理由

一  当裁判所も、被控訴人らの本訴請求中主位的請求については、原判決が訴え却下をした部分を除き、その余の請求を原判決判示の限度で一部を正当として認容し、その余を失当として棄却すべきであると思料する。その理由は、以下に附加するほか、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。

1  原判決三二枚目表二行目の次に「なお、被控訴人らは、評価基準(通達)の拘束性を根拠に、原判決が「午坂」を「牛坂」の誤記として二二〇倍の評価倍率を適用して課税した本件更正等を適法と認めたことを非難するが、採用できない。」を附加する。

2  同三九枚目裏四行目の次に「控訴人は当審の準備書面(昭和五七年六月二二日付、同五八年二月八日付)で右譲渡の存在に対する反対事実を挙げて右認定判断をるる非難するがそれらの主張、事実を顧慮してもなお右認定判断を動かすことはできない。」を附加し、行を改め、次のとおり附加する。

「相続税法一九条は、相続により財産を取得した者が相続開始前三年以内に被相続人から贈与により財産を取得した場合、その者については当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した額を相続税の課税価格とみなして相続税を計算する旨規定するところ、控訴人は、右にいう「贈与により財産を取得した」とは、当該贈与が書面化又は履行されて、もはや一方的に取消し得ない状態となり、これによる財産取得が確定的となつたことをいうものと解するのが相当であつて、本件の場合、昭和四七年七月二六日の三ツ輪会覚書公正証書の作成により、敬助から千代野への共有持分の贈与が初めて確定的となつたと認めるべきであり、右は、本件相続が開始した昭和四八年一月四日から三年以内であることが明らかであるから、千代野の受贈については相続税法一九条の適用がある旨主張する。

しかしながら、相続税法一九条の文言上右控訴人主張のように解すべき論拠に乏しいばかりでなく、同条を適用するに当たり、書面化され、又は履行された贈与と、そうでない贈与との間に右のような区別を設けるのを相当とする実質的な理由もないというべきである。

そして、前記のとおり、敬助から千代野への共有持分の一部譲渡は、遅くとも、昭和三三年頃に行われたと認定すべきであるから、控訴人の右主張は理由がない。」

3  同四〇枚目裏八行目の次に「被控訴人らは、本件立木の経済的価値は無価値であるとし、あるいは牛坂の土地のうち大沢向、品ノ木及び俵石の一部純山林地区については、純山林に適用すべき二五倍の評価倍率を適用すべきである旨等述べるが、採用できない。」を附加する。

二  次に被控訴人らの附帯控訴により当審での本件更正処分等の取消しを求める予備的請求について検討するのに、弁論の全趣旨によると、右請求は、右処分等の効力を根本的全面的に主張するものではなく、本件更正等について原審及び当裁判所が採らない控訴人の法的見解が認められることを前提として構成された請求であると認められるから、その余の判断をするまでもなく、失当というべきである。

三  以上明らかなとおり、控訴人の本件控訴及び被控訴人らの本件附帯控訴(当審での予備的請求を含む。)は、すべて理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 田尾桃二 南新吾 根本眞)

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